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福岡高等裁判所 昭和30年(ナ)4号 判決

原告 宮崎伝作 外一六名

被告 長崎県選挙管理委員会

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の連帯負担とする。

事実

原告訴訟代理人は請求の趣旨として「被告が訴外境一義より提起された昭和三十年四月三十日執行の長崎県西彼杵郡香焼村議会議員選挙の当選の効力に関する訴願に対し昭和三十年七月二十九日付を以てなした「昭和三十年五月四日付香焼村選挙管理委員会の当選の効力に関する決定はこれを取消す。昭和三十年四月三十日執行の香焼村議会議員の選挙はこれを無効とする。」旨の裁決はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

(一)  原告等は、昭和三十年四月三十日執行された長崎県西彼杵郡香焼村議会議員選挙(以下村議選挙という)に立候補し当選したものであるが、右選挙において選挙会が該選挙における候補者境一義を当選人と決定したため、落選人訴外中村菊次は、同年五月二日、香焼村選挙管理委員会(以下村委員会という)に対し、右当選の効力に関する異議の申立をなしたところ、村委員会は、同年五月四日付を以て、その主張を容認し「訴外境一義の当選を取消す。」旨の決定をした。そこで、同訴外人は右決定を不服として、同月二十日被告に対し、訴願を提起したところ、被告は同年七月二十九日付を以て、請求趣旨表示の如き裁決をなし、該裁決は同年八月六日発行の長崎県公報にその旨告示せられた。而して、右訴願の本旨とするところは、右村議選挙における当選の効力に関するものであるが、被告は、右裁決において、「本年(昭和三十年)四月三十日の選挙会に於ける候補者坂井泰三郎及び境一義の按分票の計算違は全く係員の誤信に基因するものであり、訴願人の主張する如く投票の偽造或は変造の事実は認められない。従つて、中村菊次の異議申立により村委員会が「サカイ及びさかい」と記載された九票のみによつて按分した結果、境一義の当選を取消したのは、この選挙を有効とする限り適切の措置といわねばならない。」と説示し、一応当選の効力に関する村委員会の決定の妥当性を容認している。ところが、被告は、公職選挙法(以下法という)第二〇九条に準拠し右当選の効力に関する判断の域を拡張し、審理の過程に於て選挙の無効原因あることが判明したりとして敢えて本件裁決をなすに至つたものである。

(二)  しかし乍ら、右裁決に挙示せられた選挙無効の理由は以下述べるとおり、すべて法律の適用を誤り、且つ、従来の判例の要旨に違背し失当である。即ち、

(イ)  被告は右裁決に於て、選挙無効の理由の一として「投票の効力決定に関する規定違反の事実ありとし、この選挙における投票の効力決定に際しては、確実に有効とみなされる投票および無効とみなされる投票という名目の下に、投票の効力は、その大半が一方的に選挙事務従事者の手によつて決定され、選挙長が選挙立会人の点検に供し、明示であれ黙示であれ、その意見を聴いて決定したと思われる票は、有効投票三四一三票の中、多くとも五百票程度に過ぎないという事実があり、右は投票の効力決定に関する法規に違反したもので、若しかゝる大量の投票の効力決定について通常行われる選挙立会人への全投票の回示方法がとられていたとすれば、各候補者の得票数に異動を生じ、選挙の結果に異動を生ずる虞あることは推察に難くないところである。」と説示している。しかし乍ら、右事実関係については甚だしく歪曲された認定がなされているようである。本件選挙の開票手続は、選挙長、選挙立会人列席の上、所定の手続を経た後、選挙長の命により選挙事務従事者に於て、先ず全投票を混合して開票台上に置き、各選挙事務従事者は適宜に受取つた投票を各候補者別に分類して積重ね、その間、その効力について無効又は疑問と思われる票は夫々別個に整理し、右分類せられた票は更に他の選挙事務従事者が再三点検の上、各候補者毎にこれをまとめ、右無効票及び疑問票も一個所にまとめられた。かくて、各候補者毎にまとめられた票は整然と開票台の上にならべられ、選挙長及び選挙立会人の欲するまゝ自由に点検し得らるゝ状態におかれ、選挙立会人は、その欲するままに之を点検し、次で、選挙事務従事者によつて何回となし候補者の得票数が計算され、正確な数が定まつたところで計算を終え、選挙長は各候補者の得票数を朗読し、選挙立会人の意見を聴いた上その承認を得て当選者を決定し、選挙会を終了したものである。右により明らかなように、選挙事務従事者の開票の処理は、すべて選挙長の命によりなされ、選挙立会人の面前で、その注視の下に行われ、しかも開票所には選挙立会人、選挙事務従事者の外、一般参観者が詰めかけ、開票事務の状況を監視しており、衆人環視の裡に注意深く行われたもので、その開票手続には何等不正を容るゝ余地はなく、投票の効力決定は、法律に従つて選挙長がこれを決定しており、選挙事務従事者が右開票事務に参加し、事務の処理を容易ならしめた事実はあつても、投票の効力決定が選挙事務従事者の手によりなされたという事実は毛頭ないのである。右開票事務処理の過程において、いずれの選挙においても通常生じうる多少の手落ちにより按分票の誤認が生じたとしても、被告の主張するが如き選挙を無効たらしむるが如き瑕疵は存しないものである。

(ロ)  又、裁決は選挙無効の理由の一として、選挙立会人の違法選任の事実を挙げ、「本件選挙の選挙長は、選挙立会人の選任に際し、本件選挙が香焼村長選挙との同時選挙であつたことにより、村議会議員選挙の候補者の届出にかゝる者三十五名に村長選挙の候補者届出にかゝる者二名を加え計三十七名の中から籖で十名の選挙立会人を定めるという方法(村議候補者届出の者から九名、村長候補者届出の者の中から一名当籖選任)をとつたのであるが、法の規定するところによれば、この場合村議選挙の選挙立会人は前記三十五名の中より十名を選任すべきものであるから、右選任は明白な選挙法規の違反である。」と説示している。本件村議選挙は裁決に説示する如く、法第一一九条による村長選挙と、村議選挙との同時選挙であると共に、法第七九条による選挙の開票事務を選挙会の事務と合せ行つた場合であるが、法第一二三条によれば、第一一九条(選挙の同時施行)第一項又は第二項の規定により同時に選挙を行う場合においては第三六条(一人一票)及び第六二条(開票立会人)に規定するものを除くの外、投票及び開票に関する規定は各選挙に通じて適用する。第一一九条第一項の規定により同時に選挙を行う場合において選挙会の区域が同一であるときは第七六条(選挙立会人)に規定するものを除く外、選挙会に関する規定についてもまた同様とする、と規定している。而して、右法条の趣旨とするところは、選挙の経済の上に立脚して、選挙関係の人的要求、物的施設の重複を避けると共に、選挙法規違反の取締りにも便せんとするものであるから、村議選挙及び村長選挙を通じ、各候補者の届出に係る者の中から合計十名の選挙立会人が選定せられた以上、この十名が村議選挙の選挙会の事務と村長選挙の選挙会の事務に参与ある結果、村議選挙に関しても、その選挙立会人につき法定の最大限の選定を得たこととなり、右各選挙毎に別個に選挙立会人を選任しなかつたとしても、あながち違法ということは出来ない。又、法第一二三条は、同時選挙の場合にあつても開票立会人の規定を除外しているが、その趣旨とするところは、開票立会人は同時選挙の場合に於ては各選挙毎に別々に立会わねばならぬことを明らかにしたに止まり、各選挙毎に別々にその選任をなさねばならぬことを意味するものではないのであつて、要はその職責遂行についての注意規定たるに止まり、立会人の選任の重複を命じたものではないのである。仮りに、本選挙に於ける選挙立会人の選任方法が、法に違反したとしても、右立会人十名の内一名が村長選挙の候補者届出に係るもので、他の九名はいずれも村議選挙の候補者の届出に係るものであり、法定の選挙立会人の最少限度の員数は三名であるから、右選任の十名が村議選挙の開票事務、選挙会事務に参与した以上、右開票及び選挙会事務に不正が行われ選挙の公正を害した具体的事実がない限り、これを以て選挙無効の事由とすることはできない。

(ハ)  更に裁決は本件選挙の無効なる理由として「本件選挙会の終了までに選挙録が作成されておらず、選挙立会人は勿論、選挙長自身の署名も済んでいなかつたばかりでなく、その間選挙長は投票点検済の票を有効又は無効に分けることをせず、又、別々の封筒に入れることなく、開票台上の投票用紙及び選挙長席附近の投票用紙を逐次手近の分より投票箱に一括投入し、村委員会の主任書記が施錠して選挙会場たる香焼村役場の助役席の傍に置かれていたのである。右の内前者は法第八三条に違背し、後者は公職選挙法施行令第七六条の規定に違反しいずれも選挙を無効たらしむる原因たるものである。」と説示している。しかし乍ら、選挙録は選挙会に関する事実を証明するため作成する記録にすぎず、従つて、選挙会の事務が適法に執行せられたことは選挙録以外の証拠方法によりても証明しうるところであるから、右選挙録の作成について違法の点があつたとしても、之により選挙を無効とする理由はない。又、投票用紙の封入等に関するものは、仮りに裁決のいう如き違法の点があつたとしても、右は各候補者の得票数及び当選者がすでに決定せられた後のことに属し、その違法は選挙の結果を左右するものでないから、之を以て選挙無効の原因とすることはできぬ。

(ニ)  次に裁決は本件選挙の無効原因として、「村委員会の主任書記が選挙会の翌日である昭和三十年五月一日、村委員会事務室に於て投票箱の錠を外し、之に保管中の投票用紙を取出し、選挙録作成のために之を点検し、更に、翌五月二日、本件選挙の落選候補者中村菊次より選挙会の当選決定に対する異議の申立あるや、村委員会委員長は書記一名と共に、右申立に対する態度を決するため、投票用紙を保管した投票箱を開き、投票を点検した」事実を挙示し、右はいずれも重大なる法規違反であり、選挙無効の原因たるものである。というけれども、右はいずれも当選者決定後のことに属し、右投票箱の開披により選挙の結果に異動を生ずる虞は存しないから、これを以て、選挙無効の原因とすることはできぬ。

(三)  以上のごとく、被告が本件裁決に於て選挙無効の原因として挙示するところは、いずれも事実の認定を誤り且つ違法なりとせらるるものの内には多少の遺憾の点はあるとしても、之を以て選挙の結果に異動を生ずる虞は全く存しないものであるから、いずれも選挙無効の原因とすることはできない、従つて選挙無効の原因とならざる数個の事実を併せ考えても、選挙無効の原因となる理由もないのである。

(四)  (立証省略)

被告訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、原告等主張の請求原因事実に対し、次のとおり答弁した。

(一)  原告等主張の請求原因事実中、(一)の事実及び(二)の事実中本件裁決に被告主張の如き理由が挙示せられていることは、いずれも認めるが、其の余の事実は否認する。

(二)  原告等主張の請求原因(二)の(イ)の事実につき、被告が本件裁決に於て「投票の効力はその大半が一方的に選挙事務従事者の手によつて決定され」と説示しているのは、形式上はともかく、実質上選挙事務従事者がその効力を決定したものであることを述べているのである。即ち、本件選挙の開票手続に於ては、選挙立会人はその席に着席したまゝでは投票の記載内容まで之を知ることは不可能であり、且つ、選挙立会人が自己の席を離れて開票台上の投票を点検しようとするときは、その都度選挙長がこれを阻止して自席に戻ることを求めており、原告等主張の如く、開票台上の投票が選挙立会人の自由な点検に供せられたこともなく、又その自由に点検し得るが如き状態には置かれていなかつたものである。また、選挙長が選挙立会人の離席を阻止するのは、通常開票手続の混乱を避けるためであるが、かゝる場合には必ず選挙立会人に投票を一々回示し、効力決定の意見聴取を兼ねて、その点検を行わせるべきものである。然るに、本件選挙にあつては、大部分の投票は開票台上に積み重ねられたのみで、選挙立会人に回示され又はその意見を聴いて効力を決定された投票は極めて僅少であり、固より、右は選挙管理の規定に違反するもので選挙無効の原因たるものである。

(三)  原告等主張の請求原因(二)の(ロ)の事実につき、本件選挙は法第一二三条による村長選挙との同時選挙であり、且つ、法第七九条による選挙の開票事務を選挙会の事務と合せ行つた場合であつたが、法第一二三条による同時選挙の場合に於ても、法第三六条(一人一票)及び第六二条(開票立会人)に規定するものについては、各選挙を通じて適用することより除外し、開票立会人の選任は、各選挙別に選任せらるべきであることは、右法条の改正の経過に徴し明白である。従つて、同時選挙の場合にも開票事務及び選挙会の事務は各選挙毎に、別々に処理すべきもので、その夫々の開票及び選挙会は右各選挙毎に各別に適法に選定された選挙立会人(又は開票立会人)の立会を以て行われなければならないのである。然るに、本件選挙にあつては適法に選任された選挙立会人の立会がなかつたばかりでなく、却つて村議選挙の候補者の届出によらず村長選挙の候補者の届出による者が選任せられ、そのものが選挙立会人としてその開票及び選挙会に立会つたものであるから、固より違法である。

(四)  原告等主張の請求原因(二)の(ハ)(ニ)について、これ等の事実は、本件選挙の執行について、不公正の虞がないではなかつたとの疑を容れる情況の一として挙示せられたもので、被告はこの事実を他の本件裁決挙示の事実と併せ判断するときは、選挙無効原因として数えうるものとするのであつて、右(ハ)(ニ)に挙示さるゝ事実のみにより本件選挙が無効となるものと主張するのではない。而して、右事実はいずれも選挙法規に違反するものであり、右瑕疵が選挙会終了の後に生じた事実であるとしても選挙の無効原因たり得ないものではない。

(五)  以上之を要するに本件裁決は相当で原告等の請求は理由ないものである。

(六)(立証省略)

理由

原告等主張の請求原因事実中、(一)の事実は当事者間に争がない。而して、法第二〇九条第一項によれば、当選の効力に関する訴願の提起があつた場合に於て、その選挙が選挙の規定に違反することがあり、選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り、当該選挙管理委員会は、その選挙の全部又は一部の無効を裁決しなければならぬ旨規定しているから、本件裁決が右規定に従い、本件選挙には之を無効とすべき原因ありとしてなされている限り、その形式的効力には何等かくるところはないものといわねばならない。されば、原告等の本訴請求の当否は、右裁決に於て、被告の挙示する事実が、本件選挙の無効原因たりうるや否にかゝるわけである。

よつて、先ず原告等主張の請求原因中(二)の(イ)の点について検討するに、被告が本件裁決に於て原告等主張の事実を本件選挙の無効原因として挙示していること及び本件選挙が法第一一九条による村長選挙と村議選挙との同時選挙であり、且つ、法第七九条による選挙の開票事務を選挙会の事務に合せ行つた合同選挙であつたことは、当事者間に争がない。而して、検証の結果に、証人梅野広義(第一回)、桜井秀巌、小川初次、村井健一郎、森良行、松尾伝次、岩下鹿之助、内田薫の各証言と前顕梅野証人の証言により成立真正なりと認むる乙第二号証の四十二、真正に成立したものであることにつき当事者間に争のない同第二号証の四十三を綜合すると、本件村議選挙の開票は、村長選挙の選挙会の終了後、選挙会場たる香焼村役場一階に於て選挙長桜井秀巌、選挙立会人十名立会の上、投票当日たる昭和三十年四月三十日午後八時三十分頃より開始せられ、同日午後十時三十分頃終了したのであるが、右開票手続の進行は、次の如くしてなされた。即ち、先ず、選挙長の命により選挙事務従事者の手により第一乃至三投票所(本選挙に於ける全投票所)の投票箱内の投票を混同して之を開票台上に置き、選挙事務従事者は、二名一組となり、右投票を各候補者毎に撰別し、選挙事務従事者に於て有効票と認める分については、各候補者毎に五十枚を単位として開票台の上に積み重ねて交互に票数を計算し、白票又は投票用紙に記号を記載したもの(無効票)或は有効無効の決し難きもの(疑問票)については、選挙事務従事者はその都度之を選挙長に回示し、選挙長は更に之を各選挙立会人に回示してその意見を求めた上その効力を決定したが、白票とされたものについては、開票事務進行の中途より之を選挙立会人に回示してその意見を聴くことを止め、選挙長に於て、選挙立会人に白票たることを告げるのみで之を無効票中に加えたものも存すること、開票事務進行の当初選挙立会人は、選挙事務従事者の背後又は側部で開票台に近付き、同台上の投票の混合、撰別の状況を監視して之を自由に点検し得る状況にあつたが、その後、右開票事務進行の中途選挙長の求めにより選挙立会人の所定の席に戻り、右選挙立会人の席より着席した儘では、選挙事務従事者の撰別する投票の記載内容を知ることは不可能であるため、その後に於ては、選挙立会人は開票台上の投票を常には自由に之を点検し得る状況になかつたこと、かくて、選挙事務従事者により有効票として候補者毎に撰別されて開票台上に積み重ねられたものについては、その大部分につき、更に之を選挙長及び選挙立会人に回示又はその他の方法により点検せしめることはないまゝ、又選挙長に於て、選挙立会人の意見をも聴くことなく、之を有効票として各候補者の得票数に算入し、各候補者の得票数の計算終了後、右得票数朗読の上、得票数多きものより順次、氏名、得票数を発表して当選者を決定するに至つたものであること、本件選挙に於ける総投票数は三四三七票で、内有効票の総数は三四一三票であることが認められる。原告等は右開票においては選挙長及び選挙立会人は自由に投票を点検し且つ選挙長は選挙立会人の意見を聴き、当票の効力を決定した旨主張するけれども、右主張を認めて前記認定を覆すべき証拠はない。而して、法第六六条第二項によれば、開票管理者(本件選挙にありては選挙長)は、開票立会人(本選挙にありては選挙立会人)とともに、当該選挙における各投票所の投票を開票区ごとに混同して投票を点検しなければならない旨規定し、法第六七条によれば、投票の効力は開票立会人の意見を聴き開票管理者が決定しなければならない旨を規定している。そして、右各法条の趣旨とするところは、開票事務が公正に執行せらるゝことを担保するに出でたものであつて、若し開票事務が右各法条に違反して執行された場合に於ては、右開票事務は公正に執行されたことの担保を失い、選挙の公正を害しその結果に異動を生ずる虞あるものといわねばならない。ところで、叙上認定の事実に徴すると、選挙長及び選挙立会人は、本件選挙の開票手続に於て、その投票の大部分について之を点検せず且つ投票中有効投票の大部分及び無効投票の一部については選挙長は選挙立会人の意見を聴くことなくその効力を決定したものというべく、右は正に前示各法条に違反したものであり、右違反は本件選挙の投票の大部分についてなされた効力の決定が公正に行われたことを保証し難く、選挙の結果に異動を及ぼす虞あることは容易に推測し得るところであるから、本件選挙を無効たらしめるべき原因と解し得るのである。原告等は本件選挙の開票に際しては、選挙長、選挙立会人の外、選挙会場には一般参観者が詰かけ、衆人環視の内に手続の進行がなされ、其の間、何等不正行為の介入する余地なく選挙の公正を害する虞はなかつた旨主張し、証人上田正満の証言によれば、本件選挙会場には選挙長及び選挙立会人の立会の外、一般参観者が詰かけ、それ等の注視の内に開票事務が進行せられたことを認めることができるけれども、選挙立会人の自席よりは開票台上の投票用紙の記載を知ることは不可能であつたことは前記認定のとおりであり、一般参観者に於て、右投票の記載内容を知ることの一層困難であつたことは容易に理解し得るところであるから、原告等の右主張事実のみによつて本件選挙の開票手続に、何等かの不公正な事実の介入を疑う余地なしとまで断ずることはできないから、右主張は採用せぬ。

そうすると、本件選挙は爾余の争点について判断する迄もなく、右の違反事実により無効なものというべく、右と同旨の理由により本件選挙を無効とした本件裁決は相当で、原告等の本訴請求は理由ないものとして之を棄却せねばならない。

よつて、訴訟費用の負担につき、民訴法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川井立夫 高次三吉 佐藤秀)

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